・漫画や小説などを描いている方で、シナリオを考えることに悩んだり苦手だと感じている方に役立つ本をご紹介します
・漫画・小説だけでなく、映画の脚本・海外ドラマの脚本について解説された本もご紹介します
荒木飛呂彦の漫画術
漫画「ジョジョの奇妙な冒険」の作者である荒木飛呂彦さんが、自身の漫画家としての経験を交えながら書かれた著書です。
漫画において最も重要であると述べている「キャラクター・世界観・ストーリー・テーマ」という四大基本構造を軸に、具体的にどう作っていけばいいかということを解説しています。
中でも印象的だったのは、「絵が下手でも売れる漫画」と「絵がうまいのに売れない」の違いについて。
絵の描き方には「リアル化とシンボル化」の二種類があり、売れる漫画というのはその二つを同時に両立できているのだ、ということです。
5章「ヒットする漫画の絵の条件」より
水と油のように相対するリアル化とシンボル化ですが、ふたつを同時にやることは可能です。そして、それをまさに体現しているのが、鳥山明先生の絵でしょう。ひと目で誰の絵かわかるようにしながらも、メカや小道具は細部にわたってよく描かれている、これはかなり高度なテクニックです。リアル化とシンボル化を同時進行で描くというのは漫画の絵の重要事項ですが、今ヒットしている漫画はすべて、鳥山先生に代表されるこの流れに連なるものだといえるでしょう。
ベストセラー小説の書き方
著者はアメリカの小説家で、Wikipediaによると1980年代から現代までベストセラー作家であり続けているらしく、タイトルにも説得力があります。
内容については、著者が活躍した時代や文化的な違いはありますが、普遍的に通用する方法が細かく具体的にこうしろと書かれていて、大いに参考になります。
この本を簡単にまとめると、ベストセラー作家になりたければ、たくさんの本を読んで、たくさん書け、ということです。
14章「読んで読んで読みまくれ」より
わたしはこれまで何度も繰り返し、作家はよい読書家でなければならないと説いてきた。たとえ君がミステリー作家を目指していても、ミステリー作品だけを読めばいいということにはならない。どんなものを書くつもりでも、手に入る限り、あらゆるジャンルの小説を読むべきなのだ。君の読書範囲が広がれば広がるほど、同時に、君の作家としての前途も才能の幅も広がるのである。自分が書くジャンルの作品しか読まない作家も、わたしは何人か知っている。が、そのような作家の作品は例外なく視野がせまく、決して大きな成功を収めることはできないのだ。
SAVE THE CATの法則 本当に売れる脚本術
ハリウッド映画の脚本の書き方について解説された本ですが、小説や漫画などシナリオを扱う分野すべてに共通して使える、普遍的な物語のパターンやテクニックについて書かれています。
ハリウッド映画は「三幕構成」という構成に従って作られていることは有名ですが、この本では三幕構成をベースにした著者オリジナルのビートシート(テンプレート)が使われています。
「何ページ目にどんな出来事が起きるか」をスケジュール帳のようにページ単位で細かく決めて穴埋めしていくことで、構成に詳しくない人でも、お手軽にハリウッド映画っぽいものが書けてしまいます(面白いかは別ですが)。
この本の中で印象的だったトピックは、6章の「プールで泳ぐローマ教皇」と7章の「カラフルな感情のジェットコースター」です。
ローマ教皇は、退屈な状況説明パートを面白くする方法。セリフでだらだらと状況説明をすると退屈になりがちですが、それを回避するには、説明パートで読者の注意を引く何かを用意すること。
そちらに読者が気を取られている間に説明が終わっている、というものです。
感情のジェットコースターについては、本文から引用させていただきます。
良い映画とは「ジェットコースターに乗っているようなもの」とよく言われる。観客は、ストーリーの展開とともに、あらゆる感情を使い果たすのだ。笑ったり、泣いたり、興奮したり、ゾッとしたり、後悔・怒り・欲求不満・不安などを感じ、最後には息を呑むような勝利を味わう。だから劇場の明かりがついたときには、感情的に完全燃焼する。いやー! なんてすごい映画なんだ!コメディーであれドラマであれ、肝心なのは観客を感情的にヘトヘトにさせることだ。あらゆる感情を働かせ、経験させる。これが重要なのだ。
「感情」から書く脚本術 心を奪って釘づけにする物語の書き方
基本的な脚本やストーリーの作り方を知っているという中級者向けの本です。
上記とは違う著者(脚本コンサルタントらしい)ですが、「映画とは感情である」という主張をテーマにした内容となっています。
印象に残った項目はいくつもありますが、ここでは二つ紹介します。
まずサスペンスについて。ハリウッドで多くの脚本が不採用になる理由の一つは、サスペンスが不足しているということ。
サスペンスとは「何が起こるか分からない不確かさ」のことであり、つまり先の展開が読めてしまうということです。
サスペンスに必要な要素は三つあり、「キャラクターを気にかける気持ち」「危機的状況の不可避性」「結果の不確実性」です。
要するに、あなたが気にかけているキャラクターに悪いことが起こる可能性がサスペンスの正体だ。何が起こり得るかという知識と、実際には何が起こるかわからない不安が綱引きをしている状態がサスペンスなのだ。この強烈な感情がサスペンスを生み出し、あなたを座席に釘付けにする。
そしてもう一つ印象に残ったのは、コンセプトについてです。その作品がヒットするかどうか、または下読みを通過するかどうかは、ほとんどがコンセプトで決まってしまうということです。
コンセプトを決めた瞬間、その映画の成否は決まってしまうだろう。コンセプトをどのように形にするかというのが、残りの5割。
そのコンセプトにオリジナルな何かがついていれば成功するし、なければ失敗する。
――ジョージ・ルーカス
面白いコンセプトに必要な要素は二つで、「見たことがあるけど新しいもの」「必ず対立を予感させるアイデア」です。
例えば「ファインディング・ニモ」のコンセプトは「父親が、いなくなった息子を探す旅に出る(いなくなった大切な誰かを探す)」というものですが「主人公たちは魚である」という捻りがあります。
見たことがある設定に新鮮な捻りを加えることで、面白いアイデアが出来上がるというわけです。
この本では、面白いアイデア・コンセプトを作るための方法が12個ほど紹介されています。
その中でも使いやすく、よく使われる方法は「3.対照的な人物(でこぼこコンビ)」「4.対照的な人物と環境(陸に上がった河童)」でしょうか。
キャラや設定を変えれば、面白そうなアイデアが簡単に作れそうです。
このように、物語作りに必要な技法や方法が網羅的に、各項目ごとに具体的に解説されているので、ストーリー作りに悩む多くの人の知りたいことや疑問が解決されるのではないでしょうか。
人気海外ドラマの法則21 どうして毎晩見続けてしまうのか?
海外ドラマの脚本がどうして面白いのか、どうやって人気を維持し続けているのかを解説している本です。
アメリカのドラマ制作の世界は生存競争が激しく、日本の漫画の連載に似ている部分が多い印象です。
パイロット版と呼ばれるドラマの1話にあたるものをまず放映し、視聴者の反応が良ければ2話以降の制作が決定するという方式で、漫画の読み切りに似ています。
また勝ち残ったドラマでも、視聴率が悪くなれば即打ち切りという非常に厳しい世界です。まるでジャンプ漫画のようです。
そのような競争を生き抜いた本当に面白いドラマの裏側を解説した本書からは、3つの項目を引用させていただきます。
3章「セントラル・クエスチョン」より
ストーリーがこの先どうなるかを問う質問を「セントラル・クエスチョン」と呼ぶ。良い質問を設定すれば視聴者の関心は高まる。何が起きてどう解決されるかが知りたくなるのだ。「これは見なきゃ!」と言わせるドラマには強烈なセントラル・クエスチョンがあるものだ。僕らはTVにかじりつき、犯罪捜査や恋の行方を見守る。どうなるんだろう、次はこうなるんじゃないかと、予測をし、人と話し合ったりネットに投稿したりして番組を見続ける。答えが出ればおしまいだから、番組はまた新たなクエスチョンを生み出すしかない。
5章「アンチヒーローの作り方」より
最近では社会に挑戦状を突きつけるようなアンチヒーローも多い。画期的といわれる作品にはルールを破る人物が必ず登場している。『ブレイキングバッド』のウォルターや『デクスター』のデクスター、『ホームランド』のキャリー、『マッドメン』のドン・ドレイパー、『ザ・シールド』のヴィックなど、みな一筋縄ではいかない人物だ。時代に名を刻む人物には肯定的な面(+)と否定的な面(-)の両方が見られる。この+/-の二極性がドラマを生み出し、何シーズンも続く番組になっていく。
16章「スイートスポット」より
スイートスポットとはテニスのラケットの真ん中で、球で芯をとらえて最大のパワーが出せる部分を指す。TVドラマにもそのようなスポットがあるのだ。『ウォーキングデッド』が人間対ゾンビの戦いだけなら一瞬で飽きるだろう。スイートスポットは「世紀末的な世界でのサバイバル」。ゾンビはいわば背景だ。『ウォーキングデッド』の魅力は荒れ果てた世界でリックたちが家族のように助け合い、新たな社会を作ろうと奮闘する姿にある。ホラーと家族の両面を毎週、絶妙なバランスで描いたことが記録的なヒットにつながった。